わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「そうですわ。普段冷たく見えても、いざというときに優しいのがいいのです」
「まあ!ハンナ。随分はっきり仰いますけど、もしかして、そういうお方が身近にいるのですか!?」
メリーがワクワクした感じで尋ねると、ハンナはゆっくりと首を横に振った。
「いいえ、いません。ただ今絶賛探求中ですわ!でもね、メリー。私のお相手はミント王国にはおりませんのよ?」
「え?どういうことですか?」
きょとんとして首を傾げるメリーに対し、ハンナはにこにこと笑うだけで何も言わない。
そう、ハンナはリリアンヌが嫁入りするときに付くメイド。
ミント王国で探しても、あとで別れ別れになってしまうのだ。
ハンナも、恋を自重している。
「そうね。ハンナはリオンで探さなくちゃいけないわね」
「はい!リリさま、その通りですわ!」
リリアンヌがクスッと笑うと、メイドたちも笑顔になる。
馬車の中は穏やかな空気に満ちた。
しとしとと降り続く雨で山の緑がけぶる。
霧のような白いもやが緑濃い木々をかすめては流れ、緑の葉を伝って滴り落ちる雨は大地に浸透していく。
激しさをなくした優しい雨だが、道行く旅人には辛い。
ぬかるんだ道に馬車の車輪がめり込み、蹄の跡とわだちをくっきりとつける。
水たまりに馬の脚がバシャッと突っ込み泥水の飛沫が騎士たちの足を何度も汚し、ピカピカだった茜色の馬車にも泥がつく。
それでも進むのは、国のため、民のため、なによりリリアンヌ王女のため。