わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
そんな風にちっとも快適とは言えない環境でも、順調に進むミント王国の一行。
だが、山の中腹に差し掛かったあたりで、先頭騎士たちの様子が一変する。
トーマスの瞳が急に鋭くなり、体を包む空気がピンと張った。
隣に並ぶ騎士も前を睨みながら、馬の鞍にある剣の柄を探る。
ふたりが睨む前方からは、数頭の人馬が駆けてくる。
それは山の穏やかさとは不似合いな空気を纏っており、トーマスたちはゆっくり剣を抜いた。
マックも他の騎士も気配を察知し剣を抜く。
向かってくる人馬の陰に剣が光るのを確認したマックは即座に叫んだ。
「トーマス、先陣を切れ!」
「承知!マック隊長!馬車を頼みます!!」
トーマスが剣を振り上げて猛然と馬を駆ると、男性の雄叫びが山道に響いた。
急に走りを止められた馬がいなないて前脚を大きく振り上げ、馬車はガクン!と大きく揺れる。
中では椅子から投げ出されたリリアンヌたちの体が互いにぶつかり合い、痛みに顔をゆがめていた。
「ううっ、リリさま、申し訳ございません!!」
「リリさま、お怪我はありませんか!?」
「平気・・・でも一体何が?」
馬車はガタガタと揺れながら横滑りをし続けて体が思うように制御できぬ中、外からのただならぬ怒声を耳にしたリリアンヌの背筋がザワッと震えた。
「マック、何事ですか!?」
外に呼びかけても応答がなく、剣がぶつかり合う音と争う声と泥を踏む音が聞こえるだけだ。
リリアンヌは弓矢を手にし、窓から外を覗いた。