わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
頭に布を巻いた大柄の男とマックが戦っており、リリアンヌの心臓がドクンと震える。
髭の生えた清潔感のない荒くれた風貌はどう考えても盗賊の類いだ。
馬車を守るマックの相手は五人、見える範囲で判断しても敵は騎士たちの数倍はいる。
「リリさま外では何が起こっているのですか?」
メリーが泣きそうな顔で問いかけ、ハンナはリリアンヌの体をぎゅっと捕まえた。
「リリさま、絶対に外に出てはなりません!」
その声も手も震えており、血の気がひいた顔色で唇を引き結び、ハンナは恐怖と懸命に戦っている。
勿論リリアンヌとて怖い。けれども自分は王女だ。こんなときこそしっかりしなければと、弓矢を強く握り自らを奮い立たせた。
「二人とも心配しないで。ミント王国の騎士は皆強いのです。騎士たちを信じましょう」
馬車を守る騎士は増え、万全な守りだ。
金属音と誰の声ともわからぬ雄たけびとぐちゃぐちゃと泥を踏む音に交じり、マックが騎士に命じる声が響く。
次々に向かってくる敵をマックたちは倒しており、盗賊も金品を盗るのを諦めて逃げるだろう。
そう考えたとき、窓の外に男の顔がヌッと現れた。
ヒッと声にならない息を漏らしたリリアンヌとハンナが見えたのだろうか、賊はニターッと嫌な笑いをしてみせ、ガチャガチャと馬車のドアをいじり始める。
賊がここに来たということはマックたちは敵と応戦するので手いっぱいなのだろう。
ここは自分で切り抜けるしかないと、リリアンヌは心を固めた。