わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「リリさま、奥へ!」
「いいえ、ハンナとメリーは下がっていなさい!」
ハンナが前に出ようとするのを阻んで奥に行かせ、リリアンヌは椅子に座ったまま弓を構える。
ドアは一つ。逃げ場などない。絶対に、中に入れてはならない。
弓が見えたらきっとすぐに隠れられてしまう。
確実に倒すには、弓の存在を知られる前に射るしかない。
リリアンヌはキリリと弓を引いた。
ガバッとドアが開いた瞬間敵に向けて矢を放った。
が、賊は予想に反して俊敏に逃げ、矢はぬかるんだ道にずぶっと刺さる。
その矢をちらっと見た後に賊はニヤーッと笑った。
「お嬢さんが弓の名手だと、知ってるんだよ~」
「へえ、長から聞いた通りじゃねえか。こいつはいい女だぜ」
もう一人現れて、ゲヘヘと笑う賊の手が触れそうになるのを、リリアンヌは弓で叩いて阻んだ。
「それ以上近づくのは許しません!」
「どう許さないのかな~?」
賊は痛む手をさすりつつも余裕たっぷりな様子でにやにやと笑う。
「怪我をすると言っているのです!」
焦りながらも急いで矢をつがえようとするのを素早く入りこんできた賊が捕まえ、弓を持つ細い腕はぎゅっと捻じりあげられた。
痛みに耐え兼ね、持っていた弓がカランと下に落ちる。
「出て来い!」
「嫌です!」
必死に抵抗するも、リリアンヌは外に引きずり出されてしまった。
「リリさま!!」
「リリさまを離しなさい!!!」
馬車から飛び降りたメイドたちが賊に向かって矢を振り上げる。
が、ぬかるんだ泥に足をとられて狙いが狂い、いとも簡単につかまってしまった。