わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「ですから、いい機会ですしアベルさまとお会いしたほうがいいと思いますの。あちらさまも、そのおつもりでご招待くださったと思います」
ねえ王さま?と相槌を求める王妃に対し国王はゆっくり頷いた。
「リリが行けば、アベルさまもきっとお喜びになられるだろう」
「はい。わたくしもアベルさまにお会いしたいと思っておりました」
「では、決まりだ。リリ。アベルさまに嫌われて破談とならないよう、くれぐれも、粗相のないよう気を付けるのだぞ」
国王はいったん間をおいてコホンと咳払いをした後、「お転婆は、隠すように」と念を押すように言った。
「はい。お父さま、お母さま。心得ております」
リリアンヌは謁見の間を辞して部屋へ戻り、メイドにお茶を頼んで着替えもせずにソファに座った。
突然降ってわいたことに動揺している。
初めての他国訪問。
しかも許婚の王太子アベルに会いに行くとは、これが落ち着いていられようか。
ミント王国は小さいけれど気候が温暖で、民たちは穏やかな性格で争いもほとんどなく、とても住みやすいところだ。
水が豊富で作物も豊かに採れ、そのおかげで他国との交易も盛んだ。
だが小さな国ゆえに、強国と同盟を結び軍事力の弱さを補わなければいけないのは少々つらい。
強国との結びつきを強めるため、王女はその国の王太子と婚姻を結ぶのが慣習だ。
リリアンヌの場合その相手がリオンの王太子のアベルで、たまに手紙のやり取りをするが内容は時候のあいさつ程度だ。
何となくイメージはあるけれど、実際はどんな人なのかよく知らない。
リリアンヌは宝石箱の中に花のネックレスを仕舞い、チェストの引き出しを開けてアベルからもらった手紙を取り出してみた。