わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
深々と頭を下げたメイドたちに対し、レイは「当然のことをしただけだ」と頭を上げるように言った。
「彼女をあなた方に預けたいところだが、それよりも彼らの手当てが先だな。ほら、これを使うといい。やり方はそこの男がよく知っているから聞くといい。彼女は俺が馬車に運んでおく」
レイが腰につけていた薬草入りの皮袋を渡すと、リリアンヌしか眼中になかったメイドたちは騎士たちを見て小さな悲鳴を上げた。
「大変ですわ!」
「早く手当てを!」
マックをはじめとし、トーマスも切り傷があちこちにあって、程度は軽いまでも皆血だらけだったのだ。
おまけに泥だらけでもある。
清潔な水がいるからと黒服の男に湧水の場所を教えてもらい、ハンナたちはけがの治療に向かった。
水汲みを手伝うと申し出たトーマスに対し「けが人は休んでいてください!」とぴしゃりと言い、ハンナはメリーと一緒に水瓶を取りに荷馬車に行った。
そこでまた悲鳴を上げることになる。
荷物がぐしゃぐしゃで放り出されて泥で汚れているうえに、籠が破れている物もあった。
その中にリリアンヌのドレスのような布も見えて焦り思わず片付けたくなるメイドたちだが、とにかく今は治療を!と惨状には目をつむり水瓶を持った。