わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
一方リリアンヌは、頬に何かが触れる感触で意識を取り戻した。
それはとても優しく触れていて、乳母でありメイドでもあるカレンを思い出させた。
自分が熱を出した時看病してくれたあの優しい手。
「・・・カレンなの?」
ゆっくり開けた目に映ったのは、カレンとは似ても似つかず、さらに予想もしない人で一瞬呆然とする。
この黒髪に鳶色の瞳は、紛れもなく・・・。
「レイ!?」
狭い馬車の中で二人きり。しかも自分は寝ている。
男性に寝姿を見られるとは何たることでしょう!と、信じられない状況にガバッと起き上がったリリアンヌの腕に、ズキンと痛みが走った。
「痛っ・・・」
「バカ、急に起き上がるからだ。折れてはいないが、しばらくは痛むぞ」
痛みでさすった腕には布が巻かれてあり、ひんやりとした感触がしてツンと鼻につく匂いがする。
「これは・・・レイが巻いてくれたのですか?」
「鎮痛作用のある薬草を当てて巻いてある。少しはマシだろ」
「ありがとうございます」
腕を折られずに助かったと分かってホッとするのも束の間、メイドや騎士たちのことが頭によぎり不安に駆られる。
そうだ無事なんだろうか。
「皆は!?」
こうしてはいられないと、すぐさま降りようとするリリアンヌをレイの腕が捕まえた。
そのまま抱き寄せられるようにされ、体全体がぬくもりに包まれる。