わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「全員無事だから安心しろ。それよりも、お前に訊きたいことがある」
はからずも後ろから抱きすくめられた状態で低い声でささやくように言われ、リリアンヌの体がゾクッと震えた。
それは腕を捩じられていた時に聞いた恐ろしく低い声に似ているが、感じるものは恐怖とまったく違う。
その体の芯がほわんと温かくなるような感覚は、抵抗する力をすんなり奪った。
すとんと椅子に戻されたリリアンヌをじっと見つめるのは、鋭く光った鳶色の瞳で優しさなど微塵も感じられない。
けれどその奥にほのかな温もりがあるようにも思える。
そんな相反することに戸惑うリリアンヌに、レイは布が巻かれた腕を指して問いかけた。
「リリ、どうしてこんな事態になったのか、俺にきっちり説明しろ」
なんでレイに話さなければならないのか少し疑問に思うけれども、ギラリと光を放つ鳶色の瞳に見据えられればどうにも逃げられないと悟る。
レイには、父である国王にも似た有無を言わせぬ迫力があるのだ。
「これは・・・」
馬車が襲われ、弓矢で応戦するもあっさりと避けられたこと。
金づるになるのはまっぴら御免で死んだ方がマシだと言ったこと。
それらを詳しく話していくうちに、レイの眉間にしわが寄り、頬の辺りがひくひくと引きつり始めた。