わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
ハンナは壊れた籠の中から赤色ドレスを取り出してばさっと広げ、がっくりと肩を落とした。
「ほらメリー、これを見てちょうだい」
「まあ・・・なんて酷い!これは、繕うにしても大変な技術がいりますわ。私たちには到底無理です」
「そうよね・・・」
赤色ドレスは胸のあたりから腰にかけて何本も切れ目があってビラビラになっており、目立たないように直すのは職人でも難しいと思える。
それに泥で汚れていた空色ドレスは破れはないものの、賊のものであろう靴の跡がくっきりとついている。
二着のドレスを持つハンナの手がわなわなと震えだし、ふつふつとわいた怒りが頂点まで達した。
「せっかくアベルさまにお会いするために新調されたというのに!ほんっとうに憎らしい賊ですこと!!この靴あとをつけた賊の顔に、ぐりぐりと泥を塗り付けなければ気が収まりませんわ!!勿論、腕を傷めつけたあの賊も!!」
あの顔一生忘れませんわ!ふんっ!と鼻息も荒く言い、染みついた泥の汚れと靴あとを懸命に取り始めた。
「リリさま、本当におかわいそうに」
腕を傷めたうえに用意したドレスが駄目になるなど散々だと、メリーがしくしくと泣きはじめる。
城で着るドレスがないなんて、リリアンヌにどう伝えればいいのだろうか。