わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!

一行は休まずに走り続け、日がとっぷりと暮れた頃無事に次の宿泊地にたどり着いた。

山間にある小さな集落で、泊まるのは木立の中に建つ一軒宿。

遠くにぽつぽつと人家の灯りが見えるくらいで、人も宿も多かったローザとは全然雰囲気が違う。

商店街もない小さなところだけれど、王都に行くにはここが一番近道だとマックは言う。

あと一息でアベルに会うと思うと、リリアンヌの胸に小さな痛みが走った。


宿に入ると早速メイドたちが荷物の整理整頓に来て、道中はずっと静かだったリリアンヌのまわりが一気に賑やかになる。


「リリさま、腕の薬草をお取替えしますね」


ハンナは皮袋をガザゴソと探り、薬草を千切って小さな器に入れて木の棒でごりごりとすりはじめた。

馬車の中で嗅いだ匂いが部屋の中に漂い、リリアンヌにレイのことを思い出させる。


「ハンナ、それは・・・レイにもらったものなの?」

「はい。就寝前と朝に取り換えるようにと言われております。王都に着くまでには、痛みがなくなるはずだと仰っていました。あの方は薬草に詳しいそうで、これは道に生えていたのを摂ったと言っていました」


そう言いながらハンナはすりつぶした薬草をペタペタと布に塗り付け、それを腕に貼り付け布を巻いて固定した。


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