わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
文字はとても綺麗で読みやすく、どの手紙にも便箋の隅に押し花が貼り付けられている。
子供のころからずっとそうで、リリアンヌの中でアベルのイメージはとても優しい性格の人になっていた。
植物の研究が趣味だとも聞いており、優れた頭脳を持っていると尊敬している。
けれど、自国の研究者の姿を思い浮かべれば、なよっとした優男か眉間にしわを寄せた気難しそうな男性しかいない。
数少ない比較対象で想像するに、アベルは前者だと思っていた。
毎回押し花を添えるような人なのだから、王太子として騎士団の指揮を取られることもあるけれど、正直屈強の騎士には思えないのだ。
逞しい騎士が可愛らしい押し花を貼り付けるところなんて、とても想像ができない。
だから、いざというときには自分がお守りしようと決め、国王にお願いして弓矢を心得たのだけれど。
「想像通り、素敵なお方だといいな」
まだ見ぬアベルにときめき、思いをはせていると、メイドのハンナがお茶を運んできた。
「リリさま、それはアベルさまからのお手紙ですか?」
「そうなの。今度リオンに訪問することになったの。もう今から緊張してるわ」
「それでは。それまでにお行儀をよくなさることと、仰りたいことを我慢なさる癖をつけねばなりませんわね」
「・・・分かっているわ」
少しムッとするが、ハンナの言う通りだから何も言い返せない。
喧嘩をしていた騎士たちの間に入って止めようとしたはずが、いつの間にか火に油を注ぐことになっていたり。
悩みを打ち明けてきたメイドにはっきり意見を言ってしまい、自信を失わせて実家に帰らせてしまったこともある。
つい、余計なことを言ってしまうのだ。
王女としてはよくないことだと自覚している。