わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「う~む・・・」
メイドたちの呼びかけに応じて騎士たちも勢ぞろいしたリリアンヌの部屋で、マックは厳つい顔を歪めて唸った。
賊の襲撃にあい予想できなかったことではないが、まさか一着もないとはどうしたものかと考え込んだ。
赤色ドレスと空色ドレスがハンガーにかけてあり、確かに、二着ともに着られる状態ではない。
リリアンヌをちらっと見れば沈んだ面持ちで椅子に座っており、傍にいるメリーが慰めるように手を握っている。
「パーティ用のドレスしかないのです。マックさま、なんとかなりませんか?」
ハンナがすがるような瞳で見つめ、マックは再び唸る。
なんとかならないかと聞かれても、騎士道一筋でドレスの値段はピンとこないし、ましてや王女のものなどどんなものを用意すればいいのかわからない。
しかも国から預かった旅の資金はほんの少し余裕がある程度で、それも道中の予定が狂ったときのためにと二日分の宿泊費があるくらい。
治安のいいコースを選んだのに、まさかの賊の襲撃でとんだ被害を受けたものだと頭を痛める。
ぼろぼろになるのは王女のドレスではなく他のものだとよかったのに、王女の腕を痛めた上にドレスまでも!賊憎し!!と怒りが燃え立つようにわくが、今はそれどころではない。
王太子の婚約者が花柄のワンピースで過ごすわけにいかず、復路は全部野宿でいけばなんとかなるか?と思い至った。
「ところでハンナ、ドレスはいくらかかるものだ?」
ハンナは、最低でもこのくらい?と両方の手を全部広げて見せた。
一万か?と訊けば首を横にぶんぶんと振るからマックはめまいを覚えた。