わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「リリさま。この際、これをどうしたか?とは、お尋ねしません。ありがたく、使わせていただきます」
マックは紙幣を取り出して数え、十分に足りますと顔を和らげ、トーマスとメリーに先発で王都に行きドレスを調達するように命じた。
翌朝、朝日が昇るとともにトーマスとメリーは馬で出発することになる。
伊達男のトーマスなら女性のドレスに詳しいだろうと考えたのだが、女性の人選はマックなりの計らいだ。
メリーの頬が染まっているのを見て、ハンナが嬉しそうに笑った。
「リリさま、おやすみなさいませ」
とりあえず一件落着してそれぞれが部屋に戻り、リリアンヌは一人になった。
椅子に座って賞金のなくなった籠を眺める。
レイのことを思い出さないように、考えないようにしているのに、まわりの状況がそうさせてくれない。
目をつむれば優しく見つめてきた鳶色の瞳が浮かぶし、腕に貼られた薬草の匂いを嗅げば馬車の中でされた仕置きを思い出して、額が熱くなる。
メリーは彼のことをリオンの賊討伐隊だと言っていた。
それなら王都で会えるかもしれない。
そう思うと心が躍ってしまい、花のネックレスをぎゅっと握って懸命に沈める。
自分はアベルの花嫁になる身で、他の男性に胸をときめかせてはいけないのに。
でも何度駄目だと戒めても、どうにも彼のことが頭から離れてくれず、胸に生まれた思いは熱くなるばかり。
どうしたら、彼のことが忘れられるのだろうか。
この思いが、籠からなくなった紙幣のように綺麗になくなればいいのにと思う。
「レイ・・・わたくしは、どうしたらいいのですか?」
胸からあふれる思いは止められず、目から滴となって流れ落ちた。