わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!

宿の庭では、騎士たちが馬車と馬の手入れを入念にしていた。

リリアンヌがごくろうさまと声をかけて回ると、元気な声と笑顔が返る。

明日への準備は着々とすすみ、あとはドレスの到着を待つばかりだ。


ここは小さなお宿だけど庭が広く、建物の横には果樹園がある。

こじんまりとしているけれどたくさん実がなっているようで、風に乗って甘酸っぱい香りが漂ってきた。

木の向こうに帽子を被った人がチラチラと見え隠れしており、リリアンヌは興味を惹かれて近づいた。


「こんにちは」

「ああ、こんにちは。お嬢さんはさっき到着された旅のお方ですね?」

「はい。とてもたくさん紫色の実が成っていますね。これはプルンベリーですか?」

「よくご存知ですね。今が食べ頃なんですよ」


帽子を被った男性は、おひとつどうですか?と言って、もぎ取ったプルンベリーを差し出した。

リリアンヌは「ありがとう」と受け取るけれどどう食べてよいか分からず、手のひらの中の実を見つめた。

プルンベリーはリオンの名産という知識が頭にあるだけで、実際見るのは初めてだ。

丸くて柔らかく、皮も薄そうだけれどどうするの?と悩む。

そんな様子を見ていたハンナは、リリさまこう食べるのですよ!と言わんばかりに皮のままガブッとかぶり付いてみせた。


「んー、すごく甘いですー!リリさまも食べてください!」


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