わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「そういううわさですが、皆さまにはそんなこと関係ないのでしょう。王太子さまのお相手のことは一切公にされてませんので、本当かどうか疑う方が多いようです」
「うわさではなく、お相手はちゃんと決まってらっしゃいますよ」
ほらほらここにおられます!と言いたいハンナだけれど、発表前だからいけないかもと思い、ぐっと堪える。
「ええ私も、許婚さまはもう決まっていると思っています」
そう言ってコックは、ハンナに一歩近づいて声をひそめた。
「ここだけの話、お相手はククル王国のレミーアさまじゃないかと思っているんです」
「へ?ククル王国のレミーアさま?」
コックの口から意外な名前が飛び出し、ハンナの頭の上に大きな疑問符がうち上がる。
「そうです。美しく聡明であられるとのうわさで、しかも王太子さまと同じお歳。毎年誕生祝いに来られていますし、これはもう許嫁さまで間違いないですよ!」
ククル王国は大きな国だからリオンにも国益もあると、コックは訳知り顔で語る。
そのあとレミーア王女への賞賛の言葉がならべられ、ハンナの心にムクムクと怒りがわいてきた。
うわさのみで讃えられる王女よりもリリアンヌの方が絶対に素晴らしいと思うし、幼いころに婚約者だと決められているのだ。
「今回の誕生祝いで、婚約を発表されるんじゃないかともっぱらのうわさです。お相手は、レミーアさま!」
コックが断言するから、どうにも我慢できずにとうとう口に出してしまった。