わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「いえいえコックさん違います!許嫁は、この方でいらっしゃるんです!!」
鼻息も荒く、両手でリリアンヌを示して紹介する。
するとコックは、二人を交互に見てきょとんとしたあとプーッと噴き出した。
「いやこれは失礼しました。でもそんな、ご冗談を!」
「本当です。この方は王女さまですから」
ハンナが何度も言うけれど、コックはまったく信じない。
それもそのはず、ワンピースを身につけた姿はとても可愛いけれど、商人の娘そのものでちっとも貴族に見えないのだ。
それに王女は高級な椅子に座り扇で指示をする高慢なイメージがある。
だがリリアンヌは親しみやすい感じだ。
ぞろぞろと従者を従えて来るククル王国のレミーアとは違い同行者も少数で、馬車置き場にある乗り物には華美な装飾がない。
さらにこの小さなお宿に宿泊とあれば、とても一国の王女には思えないのだ。
王太子の誕生祝いは国のお祭りだから、それを見学にきたのでしょう?と言って首を傾げる。
それに対して言い返そうとするハンナだけれど、リリアンヌに名を呼ばれてぐっと唇を結んだ。
「冷えてきたわ。そろそろお部屋に戻りましょうか。コックさん、プルンベリーごちそうさま。デザートを楽しみにしています」
「はい、腕によりをかけますよ。お嬢さんたちと話しができて楽しかったです」
二人は笑顔で手を振るコックに背を向け、果樹園から出た。