わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!


「いえいえコックさん違います!許嫁は、この方でいらっしゃるんです!!」


鼻息も荒く、両手でリリアンヌを示して紹介する。

するとコックは、二人を交互に見てきょとんとしたあとプーッと噴き出した。


「いやこれは失礼しました。でもそんな、ご冗談を!」

「本当です。この方は王女さまですから」


ハンナが何度も言うけれど、コックはまったく信じない。

それもそのはず、ワンピースを身につけた姿はとても可愛いけれど、商人の娘そのものでちっとも貴族に見えないのだ。

それに王女は高級な椅子に座り扇で指示をする高慢なイメージがある。

だがリリアンヌは親しみやすい感じだ。

ぞろぞろと従者を従えて来るククル王国のレミーアとは違い同行者も少数で、馬車置き場にある乗り物には華美な装飾がない。

さらにこの小さなお宿に宿泊とあれば、とても一国の王女には思えないのだ。

王太子の誕生祝いは国のお祭りだから、それを見学にきたのでしょう?と言って首を傾げる。

それに対して言い返そうとするハンナだけれど、リリアンヌに名を呼ばれてぐっと唇を結んだ。


「冷えてきたわ。そろそろお部屋に戻りましょうか。コックさん、プルンベリーごちそうさま。デザートを楽しみにしています」

「はい、腕によりをかけますよ。お嬢さんたちと話しができて楽しかったです」


二人は笑顔で手を振るコックに背を向け、果樹園から出た。


< 91 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop