わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「リリさま、申し訳ありません!」
せっかく笑顔が見れたのにまさかあんな話になるとは、ハンナは怒りを通り越して哀しくなるのだった。
猛反省していると言ってしゅんとうなだれる。
リリアンヌはそんな彼女の手をとり顔を上げるように仕向けた。
「いいの。ハンナはわたくしのために怒ってくれたのでしょう?それに今はまだ商人の娘だもの仕方がないわ。だから気にしないで。それにね、わたくしはこの姿を結構気に入ってるの」
初めて王国を出て、川に入って、自由に出歩いて。
この格好だからこそレイに出会えて、素敵な思い出ができたと思う。
もしも自分が王女の姿をしていたら羽目を外すことができなかったし、あの夜二人で商店街を歩くこともなかったはずだ。
レイのことを考えると胸が締め付けられて苦しくなる。
胸の熱い思いが“恋”だと自覚してからは、彼の姿も声も、頬が覚えた手のぬくもりも、忘れるどころか日増しに強くなっていく。
これはいつか薄らいでいくのだろうか・・・。
「リリさま?」
ハンナが心配げに眉を下げて見ており、リリアンヌは胸にある花のネックレスをきゅっと握って微笑みを作った。
「でも、明日からは本来の姿、ミント王国の王女に戻らなきゃいけないわね」