わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!

宿を出た一行は王都に入り、まっすぐ城へ向かった。

凛々しいトーマスを先頭に進む隊列は、人数は少ないものの大層立派で人々の注目を浴びている。

掲げられた旗の紋章は誰も見たことがなく、皆どこの国だろうと首を傾げていた。


「あ、リリさま、あのお店です。ドレスを仕立ててくださったのは」


メリーが指差す方には民家と見まごうほどの小さなお店があった。

周りにあるのは民家ばかりで掲げた看板もひび割れてて古く、とても流行っているようには見えない。

お店の前には初老の夫人が立っており、一行が通る様子をにこにこと笑ってみている。


「リリさま、あのお方ですよ」


メリーが「昨日はありがとう!」と言って窓から手を振ると、夫人も手を振り返す。

リリアンヌは心からの感謝の気持ちを笑顔に変えて夫人に贈った。


城に近づくにつれて窓の外の様子がどんどん変わっていく。

道行く人も上等な身なりをしており、道の両側には門構えも立派な大きな邸が建ち並ぶ。

道に敷かれた石畳はおうとつが少なく、馬車は快適に走った。

そんな景色を見てメイドたちも緊張し始めたのか、言葉が少なくなった。

リリアンヌももうすぐアベルに会うと思うと、とてつもない緊張感に襲われていた。

粗相をしてアベルに嫌われないように、気をつけねばならない。

リオンの花嫁になるのは、王女に課せられた責務なのだから。


レイへの思いを胸の奥に閉じ込めるリリアンヌを乗せた馬車は、ゆっくりとリオン城の門を潜った。



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