わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
そう言いながら部屋に入ってきたのは、トーマスだった。
水を張った桶をベッドわきのテーブルの上に置き、布を浸してぎゅっと絞る。
「メリー、少しひんやりするけど我慢して」
「・・・はい」
「OK、いい子だ」
じっと目をつむるメリーの額にそっと布を乗せるトーマス。
優しく微笑み、気分はどう?などと訊いている。
どうやら、ドレスを手に入れるミッションは二人の間を近づけたようで、リリアンヌは嬉しくなった。
メリーの看病はトーマスに任せ、外に出ることにする。
「ねえ、ハンナ。メリーの恋は実ったのかしら?」
「いいえ、昨夜メリーに聞きましたがまだなんです」
「まあ、そうなの?」
「お話しができる程度になっただけ、と言っていました。仕方ありませんわ。トーマスさまのお心を手に入れるのは、かなり難しいことですから」
かなり、の部分を強く言ったハンナの熱弁が再び始まる。
それを聞きながらも、思う人に看病されるメリーは違う意味で熱が上がりそうだと、リリアンヌは笑いをこぼした。
そしてハンナの話を聞くにつれ、ますます恋が叶うことを願うのだった。
話しながら散策している二人に、こんにちはと横から声をかける人物がいた。
振り向いたリリアンヌの瞳に、黄緑色のドレスが映る。
「あら?見かけないお顔だこと。あなたは、どこの国のお方かしら?」