わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
口元を扇で隠して話すその女性は、長くて艶やかな金髪を風に揺らして立っていた。
黄緑色のドレスは胸元にも袖にも裾にもふんだんにレースが使われており、背後には五人のメイドが顔を伏せて控えている。
どうやら大国の王女らしい。
リリアンヌ王女としての初外交、失礼のないよう作法通りにきちんと礼を取って挨拶をする。
「わたくしは、ミント王国のリリアンヌと申します。あなたは?」
すると、国の名前を聞いた王女の眉がピクッと引きつり、あからさまに声のトーンが上がった。
「あらまあ、ミント王国ってどこかしら?ねえ、あなたたち聞いたことあって?」
後ろに控えるメイドたちに尋ねる王女に「はい、一向に存じません」と五人が口をそろえて応える。
「そうでしょうとも。博識な、このわたくしが存じないのだから」
扇の向こうから覗く青い瞳が、リリアンヌを値踏みするように上から下まで何度も往復をする。
「でもそうね、それも当然みたい。王女につくメイドが一人だなんて、とっても小さなお国のようだし。それに、そのドレス。なんて安っぽいのかしら」
ドレスというものはこうでなくては、と王女はくるりと一回転してみせる。
何段にも重ねられたレースがびらびらと動き、腰には大きなリボンがあって、なんだかちょっと重そうに見える。
これがトレンドよ!とばかりに王女は鼻をつんと上げた。