最愛の人、お譲りします。
01:夏の日
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どこからか、蝉の声が聞こえる。
夕日に染まる上り坂は、もう何百と歩いてきた通学路だ。

隣を歩く君の手を、さりげなく握ってみる。
ちらりと顔を見てみれば、照れくさそうに笑ってた。



「……小テストどうだった?」
「うーん、まあまあかな。追試にはならなかったよ。」
「すごいね。私、数学だけひっかかっちゃった。」



他愛のない会話。握った手のひら。
ただ、それだけ。ただそれだけだけど。

それでも、嬉しくて。くすぐったくて。
隣で互いを好きあえることが、ただただ幸せだった。


こうやって、一緒に帰って。
みんなにバレないようにかげに隠れてキスをしたり。


そんな日をずっと繰り返して。


そして、これからもずっと、そうなんだと。





 





____そう、思っていたのに。




「ばいばい」




胸騒ぎがした。

君が、いなくなっちゃうような。


変な感じ。


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