最愛の人、お譲りします。
「え、風邪?」


電話越しに聞こえるのは、シュウの声。
風邪をひいたから、学校にこられないとのこと。

確かに、いつもよりも声が鈍い。時々、咳をしたり、鼻をすする音も聞こえてきた。



だから一緒に行けない、って。
申し訳なさそうにしょんぼりとした声で言う。




「うん、わかった。」
「ノート、シュウの分取っておくね。」



ありがとう、と声が聞こえたあとに、2回の大きな咳の音。

結構酷そうだなあ、なんて思いながら、「じゃあ、お大事にね」と電話を切った。




シュウはめったに風邪をひかない。


珍しいなぁとか思いながら、玄関のドアを開ける。

行ってきますの一言は、今はもう言わなくなった。母親はもう仕事で家を出ている。かといって父親に向けて言うのは、気が引けると言うか、ちょっと恥ずかしくて。







「あっつ……」


玄関を出た私を真っ先に迎えたのは、ギラギラと激しく照る日差しだ。

昨日よりも強いそれに、目を細めつつも歩き出す。



家から学校までは少し距離があるから、一人で行くのはちょっとつまらない。というか、寂しい。

シュウがいないだけで、こんなにつまらなくなるのか。

なんて。


ちょっと恥ずかしくなって、苦笑した。








< 2 / 3 >

この作品をシェア

pagetop