距離
生徒会室へ向かう。
思っていたより大変で、同じクラス同士の対戦をみつけて他のクラスと交換し、さらに1回戦目と2回戦目を照らし合わせる。
作業は1日では終わらなく、3日ほどかかった。
1番辛かったのは、生徒会室にいるということ。
生徒会室では会長と副会長の膝枕を目撃したり、書記の1年生が書記の2年生の膝に座っていたり、なんとまぁ苦痛な光景だった。
そんな生徒会のイチャつきを横目に完成したトーナメント表。
加藤隼人と私のチームは2回戦目で対戦となる。
顧問のセリフを思い出しバレないかと不安になったが、怪しまれる事もなく受け取ってもらえた。
好きな人じゃないから。謝りたい。それだけ。
こんな方法、ずるくてごめんね。
カルタ大会当日。担任の「進学科の意地を見せてやれ。」の言葉にクラスの指揮が上がる。
委員長である私は1番頑張らなきゃいけないはずなのに、1回戦目は全く集中できなかった。次の対戦で加藤隼人が来る。なんて声をかけよう。みんなのいるところじゃ謝れないから、せめて話せるようになりたい。そんなことを考えて、ノルマぎりぎりの枚数しか取れなかった。
2回戦目。対戦相手、というより私の顔を見て加藤隼人は目を丸くした。
自分なりに精一杯の笑顔を作って「よろしくね!」と声をかける。
少し戸惑いながらも「おう!」と返してくれた。
結果は圧勝だった。話せたことで安心し、自分に火がつき、周りがどん引きするほど取った。楽しかった。
お互いが取れる度に目を合わせて笑った。
終わったあと、「お疲れ!」と声をかけてクラスへ戻る。
「待って、藍海ちゃん!今日放課後空いてるかな。」
ふと声をかけられた。
「カルタ大会の片付けが終わったら暇だよ。」
「本当に!わかった!」
手を振りながら自分のクラスに戻っていった。
今のは待ち合わせ?場所指定は?聞く暇もなくカルタ大会が終わる。
私はなるべく早く片付けを済ませ、自分のクラスと加藤隼人のクラスに行った。
どちらも、もぬけの殻で見当たらない。食堂など居そうな場所を探したがいなかった。
待ち合わせじゃなかったのかもしれない。
諦めて下駄箱へ向かう。
見つけた。私の下駄箱のところに座って待っていた。
「ごめん、別の場所にいるのかと思って探しちゃった。」
「あ!場所言ってなかったねごめん…。」
靴を履き替えて歩き出す。
「富公園行かない?」
向こうから切り出してきた。
「うん。行く。」
会話はそれきり。富公園までの長い道のりを、二人は黙って歩いた。
「ごめんね。ずっと謝りたかったんだ。」
公園につき、ベンチに座る。加藤隼人がポツリと俯きながらそう言ってきた。
「ううん、謝らなきゃいけないのは私なの。無視したりしてごめん。」
本気で落ち込んでる加藤隼人をみて、ちゃんと相手のことを考えて行動すべきだったともう1度反省する。
「いや!俺でもそんなに話したことない男子から彼氏いるかなんて聞かれたら無視するよ…。」
「隼人くん女子なの?」
「もし俺が女子だったらの話!」
耳を赤くして反論する。
「ごめんごめん、怒らないで?彼氏いるか急に聞かれたから無視したってわけじゃないの。ちょっと嫌なこと思い出して、返せなかった。」
「嫌なこと?」
不安げに私を見つめる。
「隼人くんなら、信用していいかな。」
「俺で良かったら話して。」
翔太のことを自分から誰かに話したことはなかったし、大学生の話も、誰にもしたことがなかった。ネットで知り合った男の人を好きになったなんて言ったらみんな何て言うんだろう。しかも、処女を奪われてから振られた。
話してる途中で涙が止まらなくなって、隼人くんの前で泣いてしまった。静かに黙って聞いてくれていた。
話し終わったところで、隼人くんがふと立ち上がり、隣の自動販売機で2本飲み物を買って戻ってきた。
「これ、藍海ちゃんが聞かれたくないこと質問しちゃったお詫び。」
そう言って渡されたいちごオレ。
「え!いいの!ありがとう!」
小さい頃から大好きだった。飲むと鼻に抜けるいちごの匂い。
「本当にそれ好きだよね。」
嬉しそうに飲む私を見つめる。
「え、私がこれ好きなの知ってるの?」
「うん。」
ちゃんと話せたのは今日がはじめて。好きな飲み物の話なんて1度もしたことがなかった。
「なんで知ってるの?」
そう聞くと、また隼人くんの耳が赤くなった。
「ずっと見てた。」
恥ずかしそうに自分のジュースで顔を冷やす。
「お互い部活やってた頃さ、よく終わりの時間が重なってたんだよ。食堂行くと藍海ちゃんがいて、いつも同じの買ってた。最初は可愛い子だなって思って見てたんだけど、だんだん気になって、名前調べてクラス調べて、待って、俺ストーカーみたいごめん!」
知らなかった。自分の知らないところで毎日いちごオレを買ってるところを見られていた。
「藍海ちゃんのこと、好きだった。」
俯いて呟いた。
「ありがとう。すごい嬉しい。でも」
ごめん。と言おうとしたところで遮られる。
「いいの、わかってる。今の話聞いたら付き合ってなんて言えないよ。」
また隼人くんの悲しそうな顔をみた。
「隼人くん!LINE交換しよ!私、隼人くんともっと仲良くなりたい。ここ最近、ずっと隼人くんと話せるタイミング伺ってた。」
わざと隣に座ったこと、本当は私がくじ引きに回りたかったこと、今日わざと、隼人くんと対戦したこと。話したら笑われた。それから「そんなに俺と話したかったの?」って意地悪な笑顔。
LINEを交換して、じゃあまた明日。そういってお互いの帰り道へ向かった。
「藍海ちゃん!」
「何ー!」
少し離れた距離。大きめの声で返す。
「俺さ!まだ藍海ちゃんのこと好きでいていいですか!」
通行人が私達を一瞬みて、微笑みながら通り過ぎていく。
「私気持ちに答えられないよー!それでもいいのー!」
「いいよ!」
その後小さく隼人くんの口が動いた。車の音で聞こえない。
「何ー!もう一回言ってー!」
「家着いたらLINEしろよー!」
そう言って隼人くんは自転車にまたがり急いで帰っていった。
思っていたより大変で、同じクラス同士の対戦をみつけて他のクラスと交換し、さらに1回戦目と2回戦目を照らし合わせる。
作業は1日では終わらなく、3日ほどかかった。
1番辛かったのは、生徒会室にいるということ。
生徒会室では会長と副会長の膝枕を目撃したり、書記の1年生が書記の2年生の膝に座っていたり、なんとまぁ苦痛な光景だった。
そんな生徒会のイチャつきを横目に完成したトーナメント表。
加藤隼人と私のチームは2回戦目で対戦となる。
顧問のセリフを思い出しバレないかと不安になったが、怪しまれる事もなく受け取ってもらえた。
好きな人じゃないから。謝りたい。それだけ。
こんな方法、ずるくてごめんね。
カルタ大会当日。担任の「進学科の意地を見せてやれ。」の言葉にクラスの指揮が上がる。
委員長である私は1番頑張らなきゃいけないはずなのに、1回戦目は全く集中できなかった。次の対戦で加藤隼人が来る。なんて声をかけよう。みんなのいるところじゃ謝れないから、せめて話せるようになりたい。そんなことを考えて、ノルマぎりぎりの枚数しか取れなかった。
2回戦目。対戦相手、というより私の顔を見て加藤隼人は目を丸くした。
自分なりに精一杯の笑顔を作って「よろしくね!」と声をかける。
少し戸惑いながらも「おう!」と返してくれた。
結果は圧勝だった。話せたことで安心し、自分に火がつき、周りがどん引きするほど取った。楽しかった。
お互いが取れる度に目を合わせて笑った。
終わったあと、「お疲れ!」と声をかけてクラスへ戻る。
「待って、藍海ちゃん!今日放課後空いてるかな。」
ふと声をかけられた。
「カルタ大会の片付けが終わったら暇だよ。」
「本当に!わかった!」
手を振りながら自分のクラスに戻っていった。
今のは待ち合わせ?場所指定は?聞く暇もなくカルタ大会が終わる。
私はなるべく早く片付けを済ませ、自分のクラスと加藤隼人のクラスに行った。
どちらも、もぬけの殻で見当たらない。食堂など居そうな場所を探したがいなかった。
待ち合わせじゃなかったのかもしれない。
諦めて下駄箱へ向かう。
見つけた。私の下駄箱のところに座って待っていた。
「ごめん、別の場所にいるのかと思って探しちゃった。」
「あ!場所言ってなかったねごめん…。」
靴を履き替えて歩き出す。
「富公園行かない?」
向こうから切り出してきた。
「うん。行く。」
会話はそれきり。富公園までの長い道のりを、二人は黙って歩いた。
「ごめんね。ずっと謝りたかったんだ。」
公園につき、ベンチに座る。加藤隼人がポツリと俯きながらそう言ってきた。
「ううん、謝らなきゃいけないのは私なの。無視したりしてごめん。」
本気で落ち込んでる加藤隼人をみて、ちゃんと相手のことを考えて行動すべきだったともう1度反省する。
「いや!俺でもそんなに話したことない男子から彼氏いるかなんて聞かれたら無視するよ…。」
「隼人くん女子なの?」
「もし俺が女子だったらの話!」
耳を赤くして反論する。
「ごめんごめん、怒らないで?彼氏いるか急に聞かれたから無視したってわけじゃないの。ちょっと嫌なこと思い出して、返せなかった。」
「嫌なこと?」
不安げに私を見つめる。
「隼人くんなら、信用していいかな。」
「俺で良かったら話して。」
翔太のことを自分から誰かに話したことはなかったし、大学生の話も、誰にもしたことがなかった。ネットで知り合った男の人を好きになったなんて言ったらみんな何て言うんだろう。しかも、処女を奪われてから振られた。
話してる途中で涙が止まらなくなって、隼人くんの前で泣いてしまった。静かに黙って聞いてくれていた。
話し終わったところで、隼人くんがふと立ち上がり、隣の自動販売機で2本飲み物を買って戻ってきた。
「これ、藍海ちゃんが聞かれたくないこと質問しちゃったお詫び。」
そう言って渡されたいちごオレ。
「え!いいの!ありがとう!」
小さい頃から大好きだった。飲むと鼻に抜けるいちごの匂い。
「本当にそれ好きだよね。」
嬉しそうに飲む私を見つめる。
「え、私がこれ好きなの知ってるの?」
「うん。」
ちゃんと話せたのは今日がはじめて。好きな飲み物の話なんて1度もしたことがなかった。
「なんで知ってるの?」
そう聞くと、また隼人くんの耳が赤くなった。
「ずっと見てた。」
恥ずかしそうに自分のジュースで顔を冷やす。
「お互い部活やってた頃さ、よく終わりの時間が重なってたんだよ。食堂行くと藍海ちゃんがいて、いつも同じの買ってた。最初は可愛い子だなって思って見てたんだけど、だんだん気になって、名前調べてクラス調べて、待って、俺ストーカーみたいごめん!」
知らなかった。自分の知らないところで毎日いちごオレを買ってるところを見られていた。
「藍海ちゃんのこと、好きだった。」
俯いて呟いた。
「ありがとう。すごい嬉しい。でも」
ごめん。と言おうとしたところで遮られる。
「いいの、わかってる。今の話聞いたら付き合ってなんて言えないよ。」
また隼人くんの悲しそうな顔をみた。
「隼人くん!LINE交換しよ!私、隼人くんともっと仲良くなりたい。ここ最近、ずっと隼人くんと話せるタイミング伺ってた。」
わざと隣に座ったこと、本当は私がくじ引きに回りたかったこと、今日わざと、隼人くんと対戦したこと。話したら笑われた。それから「そんなに俺と話したかったの?」って意地悪な笑顔。
LINEを交換して、じゃあまた明日。そういってお互いの帰り道へ向かった。
「藍海ちゃん!」
「何ー!」
少し離れた距離。大きめの声で返す。
「俺さ!まだ藍海ちゃんのこと好きでいていいですか!」
通行人が私達を一瞬みて、微笑みながら通り過ぎていく。
「私気持ちに答えられないよー!それでもいいのー!」
「いいよ!」
その後小さく隼人くんの口が動いた。車の音で聞こえない。
「何ー!もう一回言ってー!」
「家着いたらLINEしろよー!」
そう言って隼人くんは自転車にまたがり急いで帰っていった。