あの頃ラッキーストライクと彼
キャンプ

テントの中はちょうど良い気温だった。


夜中になり聞こえるのは波の音とラジオから流れるどうでもよいDJの言葉だけだった。


「こんなのしかやってないなら切ろうぜ。」


そういうと川野武はテントの隅に置いてあった小さなラジオを切った。


しばらく二人共口を聞かずに波の音を聞いていた。


ビールの酔いも醒めて来るなかで波の音が心地良かった。

俺達は二人共当時はほとんど飲めない事に今回初めて気付いた。


煙草を吸い喧嘩をして女と遊んでいたのにビール一本を二人で飲むのがやっとだったのには笑えたし二人だけの秘密にした。


不良と呼ばれていた二人がビールも飲めないのでは格好がつかないからだが、今思うと馬鹿馬鹿しい話しだった。


しかし、俺達は当時は馬鹿馬鹿しい事に必死になり馬鹿馬鹿しい事に怒り泣いた。


違う学校の生徒がガンを飛ばしたと見ると速攻で殴りに行き女の子が妊娠したと聞いたらカンパを集めるのに奔走した。


アントニオ猪木がハルクホーガンに失神させられたら次の日ホーガンの奴は許せねえと真面目に怒ったし猪木が失神した事に涙を浮かべたのだ。


馬鹿馬鹿しい事に必死になるのは思春期独特な物なのかも知れない。


必死になると言うより必死になれたのだと今では思う。


「尚樹ところで卒業したらどうするんだ?」


川野が聞いてきたが俺はどうするか決めかめていたから少し考えて曖昧な返事をした。


「タケちゃん俺はまだ分かんないけど、出来たら就職するかなと思ってる。」


川野武を俺はタケちゃんと呼び奴は俺を尚樹と呼んだ。

タケちゃんマンが流行ってからかも知れないがその後もその呼び方は変わらなかった。


「就職は出来るだろう。大学は行かないのか?警察官は?お前は色々選択出来ていいよな。」


そういうと川野は煙草に火をつけた。


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