あの頃ラッキーストライクと彼
「タケちゃんは俺に一緒に組に入って貰いたいんだろう?そりゃ無理だよ。俺にそういう根性は、ねえからな。」
そういうと俺も煙草に火をつけて深く吸い込んだ。
風でテントがバタバタと音を立てた。
川野は卒業を待たずに地元のヤクザの組に入るつもりだった。
身長も高く喧嘩も強く度胸がある川野にはお似合いなのかもとその頃は気楽に考えていた。
うちの高校は地元では有名なヤンキー高校だったから何人も先輩達が組に入っていた。
田舎の街のヤクザが何をするのか等は俺には興味がなかった。
祭りを仕切ったり飲み屋におしぼりを卸したり裏でカジノのような事をしてるのは知っていたが特に興味が湧かなかった。
「そりゃお前も来てくれたら俺にとっては嬉しいけど無理にとは言わないよ。ところで伊丹監督のタンポポ来るらしいな。
お葬式はけっこう面白かったもんなあ。」
川野は俺と同じ無類の映画好きで街で二つしかない映画館には二人で良く行っていた。
伊丹十三はお葬式を初めて撮って一気にブレイクしていた。
普段はどちらかと言うと洋画の方が好きな俺達でも伊丹十三には新しい感覚を覚えて好きになっていた。
川野は一見すると粗野に見えたが話すと非常に頭の回転が良かった。
しかし、それを皆の前では滅多に出さなかった。
何故かと言うと学校では一応番長だったから知的な部分を出すのを恥ずかしがった。
それは俺もそうだった。
イメージを崩すとそこが、弱点になるような気がしていたからだ。
俺は本を読むのも好きだったが、学校の仲間の前では隠していた。
それがバレると何かが崩れて行くようで嫌だったのだ。
川野も同じだったように思う。
面白くもない日活ロマンポルノを二人で見に行き皆に自慢げに話してる方が楽だった。