あの頃ラッキーストライクと彼
「間に合ったな。また派手にやらかしてたなあ。」
川野が息を切らしながら走って来た。
「休憩時間だよ。」
そういうと缶コーヒーを俺に投げてよこした。
二人で缶コーヒーをホームで立って飲みながら特に話す事は無かったが俺の中でさっきまでの苛立ちが消えてるのが分かった。
それと同時にこの小さな街を離れる寂しさや不安が沸き上がった。
川野が煙草を出すと封を切っていないそれを自慢気に見せて俺のジャケットのポケットに押し込んだ。
ラッキーストライクだった。
当時は田舎ではなかなか手に入らない洋モクだったので驚いたが有り難く貰った。
二人でセブンスターに火をつけながら少し笑った。
「結婚するかしないかはお互いに分からんけど、何か大きな事があったら言えよな。その時は俺は今より出世してだろうが、お前の頼みなら仕方ないから聞いてやるよ。」
そういうと川野は笑った。
俺もニヤリと笑うとお互いに肩を叩きあった。
俺達に明るい未来が待ってるとその時はお互いに思っていたのかも知れない。
電車に乗ると川野はホームに立ったまま軽く手を振り照れくさそうに笑った。
俺も軽く手を振り同じように笑った。