夫の教えるA~Z
「急な出張なんて言っといて、女連れてってんじゃないの~?若しくは東京に定宿あるとかさ……」
  
 またイジワルなコトを……
 まあ、絶対ないと言い切れないのがカナシイところではある。

 私はムシを決め込んで、彼の飲みかけのコップを知らんふりしてトレイに載せた。

「あっ…
 そういえばボクのお客さんが、アキト君と同じ会社にいるんだけど、可愛いバイトさん入ったらしいよぉ?」
「ナヌッ…」

 従前のカレが、バイトキラーと呼ばれていたことを何故知っているんだ!

 怯みながらも新生トーコは、負けじと言い返す。
 
「い、いいんですぅ!
 私はそういうコマカイ事は気にしませんから。
 だって私達ってば、アイし合ってますから~~」

 私は、こないだ初めてキチンと『好きだ』宣言してくれた、彼を思い出していた。

 彼のイチバンは、何と言っても私なんだもんね。
 台詞を何度も反芻し、ポッと頬を赤らめた。

 シ・ア・ワ・セ……

 汐田サンは、苦々しい顔をした。

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