夫の教えるA~Z
「あっ……そう。
 でもさ、今日、トーコちゃんの誕生日だろ?
 俺なら『おめでとう』の一つもいうけどな~……」

「彼は超忙しいんですぅ!」
「ずっと?電話も掛けられないくらい?
 もしかして、何か掛けられないワケでもあんじゃね~~のかなぁ」

「うぐっ……」

 実はだいぶ気にしていた私は、図星をつかれて黙り込んでしまった。

 それを見た汐田サンは、ニヤリと意地悪く笑うと、キョロキョロ辺りを見渡してから、私の肩に手を回した。

「…トーコちゃんの今日のコスプレ、中々セクシーだよな……ひょっとして、俺の事誘ってる?」

「へ?」

 キョトンとした私の胸元に、彼が不埒な右手を侵入させようとした時だ。

「おい」

 さっきまで、お腹をポリポリ掻きながら眠っていた夏子お姉さんが、いつの間にか彼の背後に立っていた。

「汐田…テメエ、うちのヨメに手出ししてんじゃねえよ」

 半分寝惚け眼のまま、彼の右手首をしっかり掴んでギュウギュウ捻り上げる。

「な、夏っちゃん…イタイ、分かった、分かったから…もうしませんって!許して…ひゃんっ」

「オラ、帰(けえ)るぞ」

 汐田サンを捕らえると、耳を引っ張って私から引き剥がす。
 

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