夫の教えるA~Z
「あ…?」

「何が『嫌ぁ~‼』なんだ?」

 パッチリ目を開けると、真正面に伯爵様…イヤ、アキトさんの顔が覗き込んでいた。

「オマエ…何て格好で寝てるんだ」

 ムックりとベッドから起き上がる。
デジタル時計を見ると時刻は未明、朝の4時。
 “ちょっぴりセクシーなコウモリ”のままの私を見下ろし、呆れた顔のアキトさんは、まだスーツを着たままだ。

「え、エート……ト、trick or treat!
なんつって」

 私、何という欲求不満な夢を……

 気恥ずかしさを、私はオドけて誤魔化した。
 すると彼は、ニッと口の端を上げた。


「へぇ、面白いな。君が俺にどんな悪戯してくれるの?」
 何も持ってないよ?と、彼はジェスチャーで示して見せた。

 キラリと光った瞳が、興味深げに私を見つめる。
 うっ……いかん、ペースに乗せられる。
 私はサッと受け流す。

「どどど、どうしたんです?今夜は確か帰れないって……」

クスッと笑った。

「…社用車で。高速飛ばして帰ったよ。一緒に連れてった松田(kに登場)が泣いてたけど」

……可哀想に。
(彼はスピード狂なんだ)

 にしても良かった。
 女連れ出張でも定宿泊まりでもなかったんだ。
 ニッと頬が緩んでしまう。


 …でも、どうしてワザワザ?
 聞こうとする前に、彼が先に口を開いた。









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