夫の教えるA~Z
「……誕生日だろ?おめでとう。日付、変わっちゃったけど」

 彼はポケットから、銀のリボンの掛かった小箱を取り出した。

「……カワイイ」
 
 そっと開けると、ブルーダイヤの小さなピアス。

何だかまだ、夢みたいだ。


「焦ったよ。誕生日だって言わないからさ」

 あれ、言ってなかった…け?
 私が首を傾げていると、ハーッと彼がため息を吐いた。

「誕生日なんて聞いてない。
 オマエさあ、ハロウィンパーティがどうのって話ばっかりしてただろ。
 ……俺抜きで、随分楽しかったみたいだけど?」

「え?じゃあ何で分かったの?」
 「…バカ姉貴が、留守電に」

 ジロりと横睨みした彼は、夏子サンの酔ったダミ声を再生した。

『トーコちゃんのバースデー、楽しんでまーす!忘れんなよな、バカ!』

 ご親切にも、私の恥ずかしい宴会芸を写した動画つきだ。

「あ、あ…」

 何か物申したそうな彼は、しかしそれを呑み込んだ。


「選ぶ時間が殆んどなかったから……今度また一緒に行こう、な?」

 言いながら、私の横髪を耳にかける。

「や…ちょっとアキトさん、くすぐったいよっ」

 イヤイヤする私に、面白がるように緩やかに、それを耳に付け終えて、耳朶に軽く口づけた。
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