夫の教えるA~Z
「よく似合うよ。…コレでイタズラは免れた?」

 柔らかに微笑む彼に、私は小さく頷いた。相も変わらず、キザな演出。
 …恥ずかしすぎて顔が上げられない。 

 俯いてテレていると、彼が私を覗き込んだ。

「で、俺には何くれるの?」
「は?」

「は?じゃねえよ『トリック・オア・トリート』だ。お菓子をくれなきゃイタズラするぞ」

「え?あ、……ち、ちょっと待って。キッチンに確かキャンディが……っあ…」

 慌てて起き上がろうとした私は、敢えなくベッドに押し戻された。

「はい終了、時間切れ。イタズラ決定!」
「何それ、早っ‼」


「…帰るなりそんな格好で誘うから…今夜の獲物はトーコ、君だ……」

 スーツ姿の伯爵様は、とうとうその想いに気づき、女の姿に変身させた、コウモリの首筋に甘やかな歯牙をかけた……

『ご主人様ぁ~、ついに私めを…』

 あれれ?コレ……やっぱり夢から覚めてないのかな?

 ハロウィン。
 モンスター達の祭典は、夜と朝、夢と現の境にあって……


 ハッ。


 いかん、現実だよやっぱコレ。
 オジサン、一体何やってるの。徹夜で無理しちゃダメだから。

「アキトさん、ちょっと待って……」
「待たん、襲わせろ~~‼」


(L おわり)

 
< 112 / 337 >

この作品をシェア

pagetop