夫の教えるA~Z
 それから約1時間後。

「ほらぁ、やっぱり遅くなった…」
「ハハハ…、まあまあ」

 身支度を終えた俺と彼女は、ガッチリと腕を組んで出立した。

 これからまず予約してあるレストランに昼食に向かう。
 それからこないだ約束した“誕プレ”を選び、その後は彼女の行きたい所に、とことん付き合ってやるつもりだ。

 エレベーターを降りると、エントランスで井戸端会議中の御婦人方がチラリとこちらを見た。
 ご近所付き合いは大事にしなければならん。
 俺が会釈してニコリと微笑むと、彼女らは至高の笑みを返してくれた。イイ人逹だ。

 すると燈子はそれをみて、プクッと頬を膨らませ、絡ませた腕にキュッと力を込めた。
 ……カワイイ。

 
 今日は幸い小春日和。寒さのニガテな俺にはありがたい。

「だからね、嵐の夜にお腹の空いた狼が羊に出会ってネ…」
「それは喰うだろ。間違いなく喰うだろ」

「もう、アキトさんは夢がないなあ…」

 彼女が最近ハマったという絵本について談笑しながら、自動ドアを抜けて、短いアプローチを歩き出した時だった。


「ん?」
 不意に、門柱の右側の陰で何かがキラっと光ったのが目に入った。
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