夫の教えるA~Z
「黙れヒヨッコ‼」
 ヤツはさらに一歩を踏み出すと、声を荒げた。
 
「いいかぁ?あれにはなあ…
 前支社長をはじめ、現場の皆の夢が詰まってるんだよっ!」

 ヒヨコ?
 ヒヨコ頭はお前だろうが!

 悪口を辛うじてこらえ、俺は大人の対応を試みた。

「だ、だからね?中止ではないと…」
 
「同じコトだっ。
 いいかぁ?
 こないだまで、陣頭に立って指揮をとっていた俺がだ。今さら……今さら現場に何て説明すればいい。
 畜生、俺らがこんなに苦労してるのに、
 本社から来た“坊っちゃん”は…。
 遊びじゃねえんだよ。昼間っからチビ女と腕なんか組んでよぉ…」

 ブルブルとナイフを持った手を震わせながら、涙声でガナり出す石田部長。

 苦労してるぅ?
 遊びじゃねえ?
 チビオンナ…だとぉ⁉

 俺だけならまだしも、無関係のトーコまでディスりやがって!

 それをきっかけに、俺の中の何かが切れた。
 

 プチン。
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