夫の教えるA~Z
「…フン、下らない。そんな事言ってさ、
 石田さん、あんた本当は現場に説明に行くのが怖かっただけなんだろ?」

 俺はさがるのを止め、ヤツに向かって有らん限りの冷笑を浴びせた。

「な、何だと⁉」
 ヤツがギロリと目を剥いた。

 (アアア、アキトさん。そういう言い方は…)
 トーコがボソボソと呟いた。



 いつの間にか俺たちの周りには、物見遊山の人だかりができている。
『キャー、あそこよ!』

 先程のご婦人方が騒ぎを聞きつけて集まってきたのを、俺はチラリと横目に見た。

 黄色い声援を背景に、だんだんとノッてきた俺は、ヤツに向かって大演説を始めた。

「アンタはこうなる前に、上の暴走を止める立場にあったはずだ。なのにいい顔したいばっかりに、耳障りのいいことばかりを言ってきた。
 だからこうなったんだ。言った通り猶予は3年。ダメなら支社は閉鎖に追い込まれる。
 敢えてテメエには言わなかったがな。
 改善計画は松田や俺が何日も夜通しかけて作ったんだ。
 いいか?奥さんと仲良くする時間を削ってもだ!」

 “ヤメテ…”
 奥さんが恥ずかしげに俯いた。


「本社で何回も頭を下げて、やっと認めてもらったんだ。
 後には引けないんだよ。
 いいか?間違ってもテメエばっかり苦労してるみたいに言うんじゃない」

「ぐっ…」
 ぐうの音も出ないらしい。

 フッ、キマッたぜ。
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