夫の教えるA~Z
ザラリとした手の甲に唇を寄せると、

……ん?

ピクリと親指が動いた気がする。

ま、まさかね。
気を取り直し、再びその手を頬に寄せた時だった。

「ふみゃっ⁉」

ベッドに寄りかかっているおシリの辺りが擽ったい。

バッと後ろを振り返ると、
ダラリと垂れ下がっていた筈の片手が、しきりに腰のあたりをサスっている。

「あ、ああ、アキトさ…ん?」


これは。

これはまさかの…

黄泉(よみ)がえり‼


思わずジーンと胸が熱くなり、目から勝手に涙が溢れ出した。

そう、そうよね……
貴方がトーコを置いて


イってしまうワケがない。


「アキトさん!アキトさん、アキトさんっ…」

私は顔に掛けられた白布を払いのけ、何度も名前を呼びながら、横たわったままの彼に夢中で抱きついた。

ちょうどその時。
背後で再びフィン、と自動扉の開く音がした。
振り返れば、沈痛な面持ちで看護師サンが立っている。

「先生、ミヤウチさんのご家族が……おいでになりました」

彼女はしめやかな声で一礼した後、ゆっくりと顔を上げた。

「先生………アレ?
あなたは一体………先生は?」


…ミヤウチ…?
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