夫の教えるA~Z
「トーコちゃん!」
「トーコ!」

天の岩戸もかくやと、2人が叫ぶ。

そっと開いたドアの隙間に、愛しい彼の姿が現れて……


バターーーン!!!!
「ウワッ……」

私は思いっきり乱暴に、ドアを開け放った。

風圧で、真正面の秋人サンが吹っ飛んだ。

廊下の壁に腰を落とし、唖然と私を見上げた彼。


ダンッ!!!!

「ひっ…」

その左耳の側を目掛けて、私は右足を蹴り上げた。
ちょっと長さが足らなくて、つんのめったがそれはまあ、ご愛嬌だ。

「と、トー……コ?」

「……テメエはなあ、いい加減にしとけよコラ(トーコ)」

「どどど…どうしちゃったの…カナ?」


「私がなあ、一体どれだけの時間、一人でいたと思ってるんだコラ(トーコ)」


壁際にズルズルと背を滑らした彼が、ぱっと目を見開いた。

「あ、あれ?トーコちゃん、
ベビードールの赤なんて持ってたっけ?
…何て言うか……絶景……」

夏子さんのワンピースで大股を開いた格好は、あらぬモノを彼の目前に晒したようだ。

「バッ……下着がこれしかなかったの~っ!
……って。そんなことはどうでもいい!」 

「はひっ」
気を取り直し、
ネクタイをグイッと引っぱると、彼の至近へ詰め寄った。
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