夫の教えるA~Z
彼は悲しげに、可動域の少ない首を振った。

「…そんなコトないよ。
昨日の夜、帰ったら君が居なかった。 

鍵も掛かってない家、やりかけの縫い物…
事件に巻き込まれたんじゃないかとか、色んなコトを考えて……
とにかく恐かった。
あちこちに電話して、探しにいって…」 


「……分からない?
わたしはね、毎日がそうなんだよ。
アナタが1日だって我慢しないコトが、毎日続いてるんだよ⁉」

彼の瞳が揺れていた。
動揺に耐えているのが見てとれる。

「そこまでは考えなかった。
……悪かった」


「もっとちゃんと言いなさい。
謝るときは?何ていうの?」

ヒステリックに声を荒げる。

「は、ハイッ!ゴメンなさいっ。
赦してくださいっ、もうしません」 


フウッ。
何だか息苦しいや。
頭がクラクラしてきた。

深呼吸を1つしてから、私は声のトーンを落とした。

彼の胸元をパッと離すと、反動で後頭をぶつけたらしい。

ゴン、と鈍い音がした。
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