夫の教えるA~Z
「……約束して。
来週からのお正月休み。今までの分、ずうっと離れないで一緒にいて」

「え、ずっと?
あ、イエ。はいっ、勿論です」

「いーい、ずっとよ?
一瞬だけでも離れちゃダメ」

「ハイッ、承知しました」

打ち付けた頭を撫でていた手を止めて、背筋をピッと伸ばしてキヲツケをする。


夏子さんは、いつの間にかその場から居なくなっていた。


「ホントに、ホントよ?」
「ハイ、約束しま……トーコ?」

何だか…スゴく疲れた。

緊張が解けて、スッと体が楽になった。

「絶対に…約束……だから…」

聞くところでは、怒った時に出るホルモン、アドレナリンは身体に毒でもあるそうな。
あんまり毎日怒っていると、寿命が縮んだりするらしい。

慣れないことに興奮して、ちょっと疲れたのかもしれない。


フワリと身体が宙を浮いた。

「トーコ、大丈夫か⁉…トーコ!」

彼がしきりに名前を呼んでいる…


大丈夫だよ。
ちょっと疲れただけだから。 


そっかあ。

自分のキモチを、誰かに代わりに言ってもらってもダメなんだ。

長く一緒に歩きたいなら、なおさら自分で言わなけりゃ。

怖がってトラブルを避けるばっかりで、
彼に真剣に向き合わなかったのは、実は私の方なのかも知れない……


「トーコ?大丈夫か、トーコ…」


薄れゆく意識の中で、私を呼ぶ彼の声が、心地よく耳に響いていた___


(O おわり  Pに続く)
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