夫の教えるA~Z
「そんな時の長さだけじゃないけれど……多分。
君が俺を思うよりはずっと、俺は君のコトを想ってる」

彼は真剣だった。
まっすぐに私を見つめて言い切った。

思うに。
私よりずっと大人で、経験もある彼だから、そんな言葉を照らいもなく言ってしまえるのだろう。
あるいは、彼一流のパフォーマンスなのかもしれない。

それでも私は___


「抱き締めても……いい?」 

首を傾げた彼の言葉に
私はコクリと頷いて、彼の胸にトンッと身体をぶつけた。

彼は私を腕の中にフワリと収め、それから徐々に力を込める……

震える声の囁きが、私の耳に伝わった。

「もう絶対に君を寂しくさせない。
お願いだから……どこにもいなくなったりしないで」

例えそれは、また守られない約束だったにしても。


「うん………ゴメンね」


もういいや。
怒るコトにも疲れちゃったし……


そもそも私は、
その中に収まれるきっかけを待っていただけなのだから___



そこでそうしていたのは、ほんの数分だったのかもしれない。

けれどその温もりは魔法みたいに、最後に私に残ったトゲの欠片を完全に融かしきってしまった。


さあ、次は私の番。
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