夫の教えるA~Z
首筋にかじりつき、コートのボタンを外しかけていた彼が手をピタリと止めた。

「それもそうだな。
久しぶりだったものだから、ついガッツきすぎた、ハハハ……悪かった」

彼はアッサリと私の上から退(の)けて、運転席に戻ってシートベルトを締め直した。

エンジンを1度空吹かしし、車を発進させると、さっきの熱情がウソみたいに、当たり障りのない笑い話をはじめる。


暫くすると、今度は不思議なことに、私の方がソワソワと落ち着かなくなってきた。

あれ?
さっきまであんなに求められていた筈なのに。
格好悪いところを見せちゃったって、気にしてるのかなぁ。

彼、わりと傷つきやすいとこあるし……

私があんまり拒むからガックリきて、ソノ気を無くしちゃったとか。

はっ、まさか。
そもそもあれはただのジョークで、ゼンゼン本気じゃなかったの?!


すっかりネガティブ思考に囚われてしまった私は、彼の話がとっておきのオチに入っても上の空、
いてもたってもいられない。
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