夫の教えるA~Z
こうしてまんまと連れ込まれた某休憩施設。

こういう場所って人生で2回目だな。
やっぱり雰囲気がちょっと…

キョロキョロしていたところを、背後からフワリと抱き締められる。

「トーコ」

いつも呼ばれる名前なのに、ドキリと跳ねた心臓は、急速に脈動を速めてゆく。

「俺さ、実は昨日から風呂も入ってないんだ。普段の君は恥ずかしがってダメだけど…
今夜の誕生日は、一緒に入ってくれる?」

秋人さんってば、なんて甘えん坊。

甘えた声に母性本能を擽られ、私はすっかり油断した。

「ウン。私が背中、流してあげるね?」

私の胸の前で組まれた彼の指先に手を重ねると、甘ったるい声で返した。

ふふっ、何だか可笑しい。
アニバーサリーの力だろうか。
今夜は、こんな台詞だってスラスラいえる。

彼は私を180度回転させて自分に向かせると、私の目を覗きこんだ。

「そっかぁ、約束だゾ?」
「ウン!」

目を細め、愛しげに笑った彼は私を軽々と抱き上げた。

ヨシヨシと頭を撫でながら、クリスマスソングを口ずさみ、バスルームへと向かう。

「さて…と」

パタン。
後ろ手に扉を閉じた彼の目に、不穏な光がキラリと光った。

…え?


それから先のことは____


ヤマトナデシコ、トーコにはとても口にできない。

彼は単に、隠した牙を剥くタイミングを図っていたに過ぎなかったのだ。

ううっ…ヒドイ。



今回の喧嘩は私にとっては今年最悪、とても悲しい出来事だったけれど、私達の距離はぐっと近づいたと思う。

そしてそれをきっかけに、私の中で結婚式の時、茫漠と口にした誓いが、初めて意味と覚悟を持った。

良くも悪くも自分次第。

来年も再来年も、
いいや、もっと長い時を私は彼と紡いでいくんだ。

(P おわり)

※都合により、端折ったシーンは
『10分間の~』に入れてオキマス。
< 180 / 337 >

この作品をシェア

pagetop