夫の教えるA~Z
「だ~か~らっ。
出来ないんだよっ、
スキースノボーフィギュアスケート…
ウィンタースポーツの全てがさぁっ!!」

 大声で喚き、彼は頭を抱えた。

「ああ~~、目に浮かぶようだ。
 支社長の俺様が(女子)社員の皆様の前で大コケし、恥をかく…
 ヤロー共の失笑と女性達の憐れみの目が」

「………つまり、女の子の前でエエ格好したいってコトですね」

 彼のつむじを見つめ、ハアッと溜め息を吐く私。

「トンでもないっ!
…いいかトーコ」

 彼はガバッと顔を上げた。
 私の両手をぎゅっと握ると、自分の胸まで持ち上げる。

「そんな無様なトップに…ヒトがついてくると思うか?
 いいや、人心は離れ、せっかく纏まりかけていた社の空気は、忽ちのうちに雲散霧消してしまうコトだろう」

「大袈裟だなあ、秋人サンは」

「大袈裟なもんか。
 なあトーコ、今会社はとても大事な時期にきている。社員の団結が何より大切な時なんだ」

 彼は、親指と人指し指で、私の中指をを愛しげに撫で始めた。

 指先にふっと柔らかく息をかける。

「はっ」
 ゾゾッと背筋に電流が走った。
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