夫の教えるA～Z
「ってね～、カチョー。
やっぱりムリです！
オオカミカチョーのこと、名前で呼ぶだなんて！
そんなこっ恥ずかしいコト、出来っこないですって！」

「何でだよ。
“オオカミカチョー”の方がオカシイし恥ずかしいだろう。
大体、俺もう課長じゃねーし」

彼は呆れ顔で私を見下ろした。

「うう…」


“私”こと大神燈子は、3日前に東京での結婚式を終え、北九州の自宅に戻ったばかり。
　
ウレシハズカシ新婚さんである。
　
夫、大神秋人は会社で直属の元上司だった。

北九州支社長として栄転、転勤の決まっていた彼に、何故か突然プロポーズされた私は、何と交際期間“ゼロ”のまま結婚してしまったのだ。

周囲の羨むエリート有望株、しかもビジュアルは最上級の彼。

取り立てて目立つところのない普通のOLだった私には、２度と訪れないであろう大チャンス。
　
しかも私、知らずのうちに彼の事を好きになっていたみたい。

こいつはラッキー、ってことで、二つ返事で『OK』した。

　
……こちらに来た当初、訳あって彼はヒツジさんの皮を被っていた(⑤)。
そのため、私の事をベタベタに甘やかしてくれていた。

そう、その1か月があまりに優しすぎて。


3年間も彼の下で苛まれたにも拘らず、私はウッカリ失念していたんだ。


彼の本性が、ワガママ、俺様、女好きの超級サド侯爵だと言う事実を。
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