夫の教えるA~Z
 数時間後。

 うう…
 私は隣り合わせに敷かれた布団の片方に、グッタリと俯せていた。

 ヒドイ、あんなコトまでされたら私___

 お嫁にいけない。


 横で艶やかにお肌を輝かせ、スヤスヤと眠る彼を恨みがましく横目に睨んだ。

 すると、その端正な横顔には、見慣れない無数の傷がある。

 ああこれはもしかして__

 あの時私を守ってくれてできた傷。


 すると単純なもので、途端に愛しさが込み上げた。
 
 結婚して8ヶ月。
 『大神課長』が見た目通りじゃないことは前から気づいてたけど…
 本当に勢いだけで結婚しちゃった私には、信じられないことだらけだった。

 本当はね、ずっと心配だったんだ。
 『大神課長』が本当に私を好きだなんて、とても思えなかったから。

 だけどそれは杞憂だった。
 彼は私を本当に好きで、そんな彼を私もまた___

 私達は1つの壁を乗り越えた。
 結婚した時よりもずっとずっとお互いを好きになった私達。

 私達はもう、何があっても大丈夫。
 こうやって少しずつ少しずつ深まって、私達は一生を寄り添っていくんだ。

「大好き……」

「う……ん」

 こっそりと隣の布団に侵入し、大きな背中に寄り添うと、彼は少し苦しそうに寝返りを打った。

 その確かな温もりを、規則正しい寝息を感じながら。
 やがては私も、幸せな眠りに落ちていった。


 この時私は、多分彼も。

 心からそう思っていた。
 

 


(Q おわり)
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