夫の教えるA~Z
「……オモイ」

 見上げた彼は、まるでスーパーで買いだめ帰りのオバチャンのように、デッカイ紙袋を両手に提げていた。

「ど、どうしたんですか、その荷物」

 おまけに彼の額には、特大の青筋が張り付いている。

「今期の決算見込書類」

 ドカッ、ドカッ。

 彼はムッツリ不機嫌そうに、私の左右に紙袋を置いた。
 靴を脱ぎながら、早口で捲し立てる。

「休み明けの役員会で、支社の経営状況を説明しなくちゃならないんだ。俺の計算じゃ、もっと良くなってるはずなのに…
 くそっ、こんな数字が出るはずないんだよ!」

 私には鞄を預け、紙袋を持ってずんずん廊下を歩いてゆく。
 その後ろを追いかけながら、私は恐々尋ねてみた。

「あの~、アキトさん。それは分かったんですけど(分からんけど)。これ、どうなさるおつもりで?
 まさか資源ゴミの、お持ち帰りってことはナイですよね」
 冗談目かして笑った私に、彼は愛想なく告げた。

「ああ、この連休で徹底的に分析してやろうと思ってね。
 で、悪いんだけど。これからすぐ始めるたいから、晩飯ここに持って来てくれる?」

「え、ちょっと」

 バタン。

 無情にも私の鼻先で、彼の部屋の扉が閉まった。
 

 そ、そんなぁぁ~~~~~…
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