夫の教えるA~Z
 明日後。
 東京から戻ってきたアキトさんは、意気揚々として満面の笑みを浮かべていた。

「やっぱり。思ったとおり、計算に間違いがあったんだ。
 3日かけて解明した甲斐があった。
役員会のウケは上々、三鷹社長の機嫌は最高だ」

 信じられない。
 前日、家から出ていくときは無精髭&ヨレヨレの、廃人同様の姿だったのに、戻ってきた彼は、いつも以上にパリッとしてお肌もピカピカ、ツヤツヤだ。

一体、どこでどうやって変身したのだろう。

『トーコのスペシャルご苦労様でした定食』をものすごい勢いで頬張る彼に目をみはりながらも、私は優雅に微笑んでみせる。

「そ、よかったワネ」
「ああ。…そう言えばさ」

茶碗を突き出し、おかわりをねだりながら、彼は思い出したように言った。

「休みがあけて、ふと気がついたら部屋にシェーバーと洗面器が転がってたんだ。髭添りなんて、した覚えもないのに…
ミステリーだよな」

「ほ、ホホホ…、頑張ってるアキトさんのところに、小さな妖精さんが来てくれたのじゃなくて?」

「ふうん、そっか」

気のない返事。
まあいい、私は極意をつかんだ。
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