夫の教えるA~Z
後日____

むーん。

今、トーコは集中している。
というのも、明後日使う、『履歴書=エントリーシート』を美しく記入するために、全精力を傾けているからだ。

と、
「トーコ」
そこに彼女の夫、お風呂上がりの秋人さんがやって来た。

元々、敏(さと)い彼である。
実は、もう気がついていた。

自分が仕事に夢中だった時、トーコがあれこれ気を回していたことを。

彼は、珍しく妻が望んでいたのに、彼女を構ってやれなかったことを激しく後悔していた。

だから、今夜こそは面目躍如を、と張り切っている。
つまるところ、目一杯いちゃいちゃしたかったのだ。

彼は、小さな彼女の背中から、フワリと優しく抱き締めた。ふっとシャボンが香っている。

彼は、妻の耳を軽く噛んだ。
経験上、女性のヨワイところは熟知している。

が、彼女少しだけ首をすくめると、

「…ちょっと、静かにしててください」

パシン。
首に回された彼の手を冷たく払っただけだった。
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