夫の教えるA~Z
はしゃいでいるトーコには内緒で、俺はこっそりと夏子姉さんに抗議に行くことにした。

「おい、姉貴。一体どういうことなんだ?!」

ピタ…

ヒップホップ初心者講座の最中だった彼女は、ジロリとこちらを一瞥し、とても迷惑そうな顔をした。

パンパン。

「はーい、みなさーん。今から3分間休憩にしまーす」

(ちょっとちょっと!あれ、ナツコ先生のカレ?)
(キャー、ちょっと。こっち見て笑ってるわよ~)

休憩をとりながらも、チラチラと俺の方を見ている受講者の皆さんに、微笑みながら軽く手を振ると、キャー、と黄色い声援が沸く。

その声をバックに背負って、夏子姉ちゃんは、大股で俺の方にやってきた。

(ちょっと!秋人)
「あ、夏姉……痛っ!」

彼女は俺の耳を引っ張って、レッスンルームから俺を廊下に連れ出した。

「ちょっとアンタ、一体何よ!
こんなとこまで来てさあ。
私の仕事の邪魔しないでくれる?」

「ね、姉ちゃんこそ!」

思いっきり引っ張られた耳を、乱暴に振り離された俺は、片耳を押さえながら、彼女に抗議した。
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