夫の教えるA~Z
俺は、絶句した。

ぽろっ。
箸からカツが再び落ちる。

「イヤだなあ、アキトさんってば驚きすぎ。夏子お姉さんに失礼ですよー」

「し、し、失礼なもんかっ!
お前もよく知ってるだろう?姉ちゃんの絶望的な料理のヘタさは。
そもそも、アイツがキッチンに立つことすら、俺ん家ではハルマゲドン級の出来事なんだぞ!?」

「ま、まあ確かに。夏子お姉さん料理とか家事キライでしたからねー。
でもね、近頃よく、私達そういう話するんですよ~。こないだも一緒にドーナツとか作ったし。
新しく来た、ジムの栄養士さんも一緒になってね。いや~盛り上がっちゃて。
そういえばあの時、夏子お姉さんも珍しく、嬉しそうにはしゃいでたなあ…」

「へ~、そう。
…ところでさ、その栄養士って女性?」

むっ。
トーコがちょっと顔をしかめた。
が、その後すぐ、ニヤリと笑って俺に返した。

「ザーンネンでした!
珍しいけど、男の人ですよ~だ。しかも、かなりのイケメンさんです。
…ま、結婚しちゃってますけどね」

心持ち残念そうに付け加えたトーコにちょっとムッとしながらも(あとでお仕置き、決定。)、俺は、ひとつの可能性に行き当たっていた。

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