夫の教えるA~Z
T シスター・コンプレックス(下)
日曜日。
俺は、トーコと一緒に姉貴の働くジムにやってきた。

思ったとおり、夏子は、受付に俺達の姿を見るなり、ツカツカとこちらにやってきた。

「よう、夏姉…ぐわっ」

そして、にこやかに手を振る俺にパンチを繰り出した。

「あんたさあ、まだ懲りてないの?
言っとくけど、何回来たってトーコちゃんは渡さな…モガッ」

俺は、片手で鼻を押さえつつ、咄嗟にもう一方で彼女の口を塞いだ。

トーコのバイトを辞めさせようと姉貴に交渉に行ったことは(前回、Pのお話)、絶対にナイショだ!

「え、アキトさん…前にも来たことあるんですか?」
「いや、ナイナイ。
なんでもないんだ。ハハハ…」

俺の背中からひょっこり顔を出したトーコを見て、夏子はコロッと態度を変えた。

「あら、トーコちゃんいらっしゃい、今日は?」

俺の手を乱暴に剥ぎ取ると、ニコニコ顔でトーコに応じる。

「はい、今日は二人でちょっと身体動かしに。えーと、アキトさんはゲスト利用で…」

トーコが夏子と楽しそうに喋りつつ、書類を書いている間、俺は受付のガラス越しに事務室《スタッフルーム》を窺った。


トーコの言ってた例の男。
前日然り気無く聞いたら、今日は出勤日だと言っていた。

スポーツインストラクターの仕事柄か、若そうな男がかなり多い。

そのうち、ねーちゃんの好きそうな優男っつったら、アイツか、それともアイツか…


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